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10代の地図帳】

井之脇 海 さん(俳 優)

 毎クール高い注目を集める、NHK朝の連続テレビ小説。現在放送中の『ひよっこ』も、すでに茶の間を鷲掴みにして久しいが、その物語前半で、ひときわ輝きを放ったのが、ヒロインの住む女子寮でコーラスを指導する高島雄大である。演じるのは俳優・井之脇海さん(21)。「俳優の醍醐味は、役を背負ってはじめてわかる究極の疑似体験——」今をときめく俊英の十代の地図を開いた。

 神奈川のお生まれですね 

 横須賀でも三浦にほど近い場所なんですが、本当に自然が多いところで。毎日、日が暮れるまで海、山、川と思うままに遊んでいました。金髪に肌を真っ黒に焦がして、手のひらにはカブトムシが踊って……、やんちゃでしたね。 

『劇団ひまわり』に所属するきっかけは 

 一人っ子だった僕は、小さい頃から親の愛を一身に浴びて育ちました。その頃は僕が「これをしたい」と言えばなんでも思うままだった。それが9歳のある日、飼い犬が病気になった。すると今度は母も調子を崩したんです。それを境に家の中はすっかり暗くなってしまった。通うバスケットボールクラブの迎えもなくなり、急速に冷え込む世界に耐えられなくなって、寂しさをまき散らすようにはじめて母に暴言をぶつけた。「みんないなくなればいいんだ」しゃくりあげると、母は「ごめんね」と困り顔で微笑い、なにかしたいことはないか、と優しく問いかけてくれた。自分はなにがしたいのか——今は、ただ親に見ていて欲しい。だから……、「テレビに出たい!」そうすればきっとまた、以前のように見てもらえるようになる——。母は「あなたが本当にやりたいならもちろん応援する。でも、やるからには半端はダメ。ちゃんと劇団に入りなさい」と言ってくれて。

 劇団の思い出は

 9歳には短くない片道1時間ちょっとの道のりなので、月の半分は親が付き添いますが、あとは一人旅です。それにまだまだ遊びたい盛りでしたから、決して精神的に楽ではありませんでしたね。それでも、レッスンを続けるうち、次第に楽しさを感じるようになってきた。歌やバラエティよりも、自分は芝居が好きだな……、と思うようにもなっていったんです。

 学業との両立に難しさは

 小学3年生で劇団に入って、それでも最初のころはまだ学校にもちゃんと行けていましたが、5年生ごろからオーディションが忙しくなり始め、休みも増えて……。みんなが遊ぶのを横目にひとり通り過ぎる——。やっぱり寂しさも感じていましたね。それでも、やめたいとは一度も思わなかった。その頃はエキストラなども多かったんですが、とにかく楽しくて。環境に馴染んで来たのか、周りが見え始めると、他の役者さんの演技を目で盗んだり。

 勉強への意識は

 小学6年生のときに『トウキョウソナタ』という映画に出たんですが、これが本当に人生を変えたんです。役づくりのためにピアノを練習するんですが、それこそ週4とか5で新宿に通うんです。当然、もう学校にはまったく行けなくなって……。それで、さすがにこのまま普通中学に行くのはマズいと、急遽、進路を変更して芸能の学校に行くことにしたんです。その甲斐あって、進学先では先生方の協力にも助けられ、勉強との両立はスムーズでした。

 その頃には将来の目標も

 そうですね。『トウキョウソナタ』では、監督の黒沢清さんの演出や、香川照之さんの芝居を目の当たりにして、強く心を動かされた。「いいなあ、自分のやりたいことはこれだな——」と。そこで進路も変えたので、本当にすべてが変わりましたね。

 大学進学を決めたのは

 香川照之さんが顔を合わせるたびに「大学は出ておいた方がいいぞ」と言うものですから(笑い)。でも、最初はその言葉くらいの軽い動機でしたが、様々の出会いのなかで、大学の学びの大切さを感じることが増えていった。香川さんの言葉を借りるなら、「役者は506070でも、いつでもできるけど、学生ができるうちに学生をやっとけ——」もっともだなと思って。わりと早いうちから進学を決めていたので、なるべく意識して勉強は頑張っていました。

 日大芸術学部に進みます

 映画学科なんですけど、入試ではお芝居を見せて、在校生が制作した映画の感想文を書いたりと、今まで頑張ってきた貯金のようなもので入ることができた。だからあまり受験勉強はしていないんです。大学では、同じ芸術学部でも、写真学科など他学科生との交流が面白いですね。暗室とか今まで入ったことがなかったので。水銀もはじめてちゃんと見て……。結局、芸術には関連するんだけど、映画以外に触れると視野が広くなる。そういうのは、やっぱり来てよかったなと思いますね。

 映画『月子』について聞かせてください

 知的障がいを抱えた女の子を孤独な青年が家に送り届けるロードムービーなんですが、普段シネコンでかかっている、いわゆる「劇映画」とはひと味もふた味も違った味わいがあります。僕自身、演じながら感じていた事なんですが、本当にドキュメンタリーに近いところでお芝居ができたな、と。僕の演じた孤独な青年に宿る外的な孤独と内的な孤独——。とりわけ内的な孤独は、日々、街ですれ違う人のほとんどが抱えているんじゃないかと思うんです。この映画には、そういった誰もが共感できる普遍性のある場面が沢山でてくる。そういうところを注目して見てもらえればと思います。

 将来はどんな俳優に

 いまは映像作品の現場にいることがとにかく楽しい。だから、ひとつでも多くの作品に関わってゆくのが目標です。役者さんの中には「俳優になりたいから映画に出たい」、「有名になりたいからテレビにでる——」という方もいるのですが、そこは僕は逆で「一本でも多く関わるためには売れなきゃいけないな……」と思っている。ある種自分のためというか……、自分が楽しむためにやっているところがある。でも、もちろんその結果、良いものが出来て、見たお客さんが楽しんでくれればそれが一番なんです。

いのわき かい 1995年、神奈川県生まれ。子役として活動を始め、2007年『夕凪の街 桜の国』で映画初出演。2008年『トウキョウソナタ』でキネマ旬報ベスト・テン新人男優賞および高崎映画祭新人俳優賞を受賞。今年はNHK連続テレビ小説『ひよっこ』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』(10月以降出演)、映画『海辺の生と死』(公開中)、主演映画『月子』(公開中)など話題作への出演が続く。

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